準委任契約とは?SESや請負との違いとメリット・デメリットを解説
「準委任契約と委任契約の違いはなんですか?」
「準委任契約と請負契約の違いはなんですか?」
「準委任契約にはどのような種類がありますか?」
業務の中には、自社の社員を使って行わずに外注したほうが効率的・低コストになるものが存在します。
それらの業務を外注する際の契約形態のひとつが準委任契約です。ただ、上記のように準委任契約とほかの契約の違いがよくわからないという方もいるのではないでしょうか?
本記事では、請負契約や労働者派遣契約、委任契約と準委任契約の違いやメリット・デメリットを解説します。
この記事を読むことで、それぞれの契約形態の理解ができ、自分に不利となるような契約を未然に防げる可能性があるでしょう。これからフリーランスになることを検討している方などは、とくに本記事を参考にし、さまざまな契約形態の理解をしておきましょう。
目次
目次を閉じる
準委任契約とは?
準委任契約は、業務委託契約のうち、法律行為ではないものの委託を行う契約を指します。
そもそも、委任には「委任契約」と「準委任契約」があります。委任契約は、弁護士などの士業に対しての業務依頼を指しており、それ以外の業務や事務作業などはすべて準委任契約です。
たとえば、あるプログラムの作成を外部に依頼する場合、これは法律行為ではないため準委任契約となります。一方、作られたプログラムに対して特許権を申請するために弁理士に依頼を行う場合は、法律行為にあたるため、委任契約となります。
準委任契約は民法で定められており、以下のような契約上の特徴があるので、確認しておきましょう。
出典|参照:第十節 委任|e-Gov法令検索
納品物の完成義務がない
準委任契約は、民法第644条および第656条の規定より『善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う』とされています。準委任契約においては、最終的な納品物の完成ではなく、指示された業務を適切に行うことが義務とされています。
納品物になんらかの問題があったとしても、そこに対しての責任は基本的に生じないのが準委任契約です。依頼元の希望どおりに納品物を完成させる義務を負うこととなるのは、請負契約という別の契約となります。
ただし、職務怠慢や致命的な注意不足が原因で納品物を完成させられなかった場合は、損害賠償責任などを負う可能性があるため、注意が必要です。
出典|参照:民法 | e-Gov法令検索
契約期間の期限がない
準委任契約は業務遂行が契約の目的であり、その業務が完了した時点で契約が自然に終了するためです。目的が達成され次第、適宜契約を解除できます。期間制限を設けないことで、業務の進行に合わせて柔軟な契約の調整が可能となるのです。
また、民法651条1項の規定により、委任者・受託者ともに契約解除の権利をもち、業務遂行のタイミングに合わせて一方的に契約を終了することも可能です。
ただし、民法651条2項の規定により双方ともに相手方に不利なタイミングにて契約を解除した場合には、生じた損害を賠償しなければなりません。
なお、委任者または受任者の死亡や破産手続きの開始が決定された場合は、これらは民法653条2号によって契約解除における終了事由と規定されていることに注意しましょう。
出典|参照:民法第651条 – 委任の解除 | 金子総合法律事務所
出典|参照:民法第653条 – 委任の終了事由 | 金子総合法律事務所
指揮命令権について
指揮命令権は、労働者に対して業務上の指示(仕事の進め方や残業・休日出勤の管理など)を行う権利を指しています。企業や部署の上長は、管轄権限のある正社員に対して業務指示を出せます。
一方、準委任契約の場合は、あくまでも発注者(委任元)と請負事業主(委任先)が対等な立場で契約を結んでいることになるため、委任元企業に指揮命令権はありません。
服務規定や作業工程などについては委任先が決定することであり、委任先企業に雇われている労働者が業務にあたる場合、労働者は委任先企業からの指示によって業務を遂行することとなります。
ただし、厚生労働省が提示している『労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド』によると、「委任元が新たな機器類を導入した際に、業務開始前に装置の使い方について委任元からレクチャーを受ける」などの行為は、準委任契約の範囲内でも認められます。
出典|参照:請負契約と準委任契約の違いとは?|ベリーベスト法律事務所
出典|参照:労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド|厚生労働省
出典|参照:3-1 業務命令権を有する使用者とは,どのような範囲の者か | 広島県
準委任契約は2種類ある
準委任契約には、履行割合型と成果完成型という2種類の目的をもった契約が存在します。履行割合型と成果完成型は、何に対して報酬が発生するのかといった部分が異なるため、それぞれ詳しく確認していきましょう。
履行割合型
履行割合型は、労働時間に対して対価を支払う業務を委任する際に行われる契約です。実際に発注者が期待した成果をあげられなかったとしても、受注者は依頼者に対して報酬を請求できます。
これは、弁護士に裁判の弁護を依頼して敗訴したとしても、弁護士費用は請求されるのと同じ考え方です。
成果完成型
成果完成型は、依頼物の納品に対して対価を支払う業務を委任する際に行われる契約です。基本的に成果完成型においては、納品までたどり着かない場合、報酬を支払う義務や受け取る権利がありません。
一方、受任者は依頼物の納品に対しての義務は負いますが、その業務内容が適切であれば、成果物の完成に対する義務は負いません。
一般的に、ある依頼物を完成させるためには、一度納品した後に検品し、問題があれば修正する必要があります。
また、納品完了の指示が出た後でも、内容に不備があり製品として不適切な状態であることが明らかになった場合は、必要に応じて追加で修正を行わなくてはいけません。
準委任契約と請負契約の5つの違い
準委任契約(成果完成型)と請負契約では、報酬の対象などいくつか違うポイントがあります。それぞれの契約について詳細に解説しますので、契約携帯をしっかりと把握しておきましょう。
報酬の対象と発生時期
成果完成型の準委任契約では、依頼物の納品が報酬の対象となります。一方、請負契約では、依頼物の完成が報酬の対象です。
つまり、準委任契約では依頼されたものを発注元に引き渡せば、それで契約が履行されたこととなります。
しかし、請負契約では依頼されたものが発注元の希望どおりになっているかを確認し、後日仕様どおりになっていなかった場合は修正を求められることもあります。
納品と完成では意味合いが異なるため、注意が必要です。報酬の発生時期は、「成果物が引き渡されるとき」でどちらも同様です。
受注者の義務
準委任契約で受任者が負う義務は「善管注意義務(善良な管理者の注意義務)」という性質のものです。善管注意義務とは、「通常要求される程度の注意を払う義務」であり、日常生活の中では賃貸物件をきれいに使用することなども善管注意義務とされています。
あくまでもこれは「注意を払う義務」であり、成果物の納品に対する義務ではない点に留意が必要です。
一方、請負契約の場合は、依頼した業務の完成(完了)が義務となっています。
出典|参照:【改正民法対応】善管注意義務とは?契約条項の意味・書き方・具体例は? | 小山内行政書士事務所
契約不適合責任があるかどうか
契約不適合責任は、2020年以前は瑕疵担保責任と呼ばれていたもののことを指します。契約不適合責任とは、契約においてあらかじめ定めた納品物を受注者が発注者に引き渡す責任のことです。
請負契約では契約不適合席があるため、成果物の内容に不備があった場合、発注者が請負人に対して不備の修正を求めることができます。
また、不備によって損害が生じた場合には、損害賠償請求を行なうことも可能です。成果完成型の準委任契約では、成果物の納品が報酬発生の要件です。
しかし、あくまでも準委任契約で受任者が負う義務は善管注意義務であり、成果物の完成には義務を負っていないため、契約不適合責任も発生しません。
出典|参照:契約不適合責任とは?責任内容や期間・免責などをわかりやすく解説|咲くやこの花法律事務所
契約解除できる時期
民法651条1項にて、「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定められています。したがって、準委任契約は、委任者・受託者ともに途中解約が可能です。
ただし、民法651条1項にて、一方的に相手の不利益になるタイミングで契約終了を決定すると、相手方に対して損害賠償金を支払わなくてはいけないことが規定されています。
また、委任者・受任者が亡くなった場合や破産手続き開始を受けた場合などにも民法653条に則って準委任契約は終了します。
一方で、民法641条によると請負契約では、仕事を完成させるまでの期間であれば、発注者が受注者に対して契約の解除が可能です。
ただし、発注者は契約解除に際して受注者に対し、受注者が受けた損害について賠償する責任を負わなければならないことも規定されています。具体的には、請負契約によってほかの仕事に取り掛かれなかった分の損害などです。
請負契約において受注者側から契約を解除するためには一定の要件があり、発注者の契約違(民法541条)や破産(民法642条)、あるいは双方の合意によって契約解除(約定解除権)が決定した場合に限定されています。
出典|参照:民法 | e-Gov法令検索
出典|参照:民法第651条 – 委任の解除 | 金子総合法律事務所
出典|参照:民法第653条 – 委任の終了事由 | 金子総合法律事務所
再委託できるかどうか
再委託とは、契約の履行に際して、受託業務のすべて、または一部を第三者に委任・請負依頼することを指します。よりわかりやすい言葉で言うならば、「自社で引き受けた業務を下請け業者に依頼して履行してもらうこと」です。
準委任業務では、『受任者は、委任者の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない』と規定されています(民法第644条の2)。
そのため、再委託を行いたい場合は、あらかじめ発注元と取り決めを交わしておく必要があります。
一方、請負契約では成果物の完成が目的であるため、第三者への再委託が認められています。
出典|参照:民法 | e-Gov法令検索
準委任契約にかかる費用の目安
準委任契約においては、契約報酬以外に以下の追加の費用として必要です。
・委任業務を処理するのに必要な費用
・契約書に対する印紙税
委任業務を処理するために必要な費用としては、特別なソフトウェアの導入などが考えられます。
たとえば、特別なソフトウェアの購入・使用が求められる業務を委任する際には、このソフトウェアの導入にかかる費用について、受任者側から負担を求められることになるのです。
また、特定の内容を含む契約書には印紙を貼る必要があります。準委任業務においては、
・無体財産権の譲渡に関する記載がある場合(第1号文書)
・継続的取引の基本となる契約書の場合(第7号文書)
印紙が必要となります。
無体財産権には、特許権・実用新案権・商標権・意匠権・回路配置利用権・育成者権・商号および著作権が規定されており、準委任業務では特許権・意匠権・著作権などが主な対象となります。
第1号文書は契約報酬額によって印紙の額が変わり、それぞれ以下のとおりです。
契約金額の記載がない場合 | 200円 |
---|---|
1万円未満のもの | 非課税(印紙貼付不要) |
1万円以上10万円以下のもの | 200円 |
10万円を超え50万円以下のもの | 400円 |
50万円を超え100万円以下のもの | 1,000円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 2.000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 10,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 20,000円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 60,000円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 100,000円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 200,000円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 400,000円 |
50億円を超えるもの | 600,000円 |
第7号文書では、契約期間が3か月以内、かつ更新の定めがないものは除外されます。第7号文書に指定される契約書では、一律で4,000円の印紙貼付が必要です。
第1号文書、第7号文書の両方に該当する契約書の場合は、原則的に第1号文書の規定に則った印紙の貼付が求められます。ただし、契約金額の記載がない場合には第7号文書として扱い、4,000円の印紙貼付が必要です(印紙税法別表第一の3)。
準委任契約に際して、印紙を貼り忘れたとしても契約が無効になるとは限りませんが、過怠税として、本来納めるべき印紙税の3倍額を罰金として科される場合があります。
また、過怠税以外に印紙税も通常の額面どおり納付しなくてはならないため、注意が必要です。
出典|参照:印紙を貼り付けなかった場合の過怠税|国税庁
出典|参照:印紙税法 | e-Gov法令検索
SES契約はシステムエンジニアが対象の準委任契約
SES(システム・エンジニアリング・サービス)契約は、エンジニアを雇用する時間に対して報酬を支払う準委任契約です。
SES契約では、基本的にあるエンジニアの客先はひとつのみとなり、そこに常駐して継続的に業務にあたります。SES契約は準委任契約であるため、指示系統はエンジニアが所属する委任先企業(事業者)となりますので、常駐先で直接作業指示を受けて業務を行うことはできません。
また、エンジニアや委任先企業に課される義務は善管注意義務であり、成果物の完成を求められたり、納品物に対して契約不適合責任を負ったりすることもありません。こうした特徴から、SES契約では履行割合型の準委任業務に該当するものが多い傾向にあります。
出典|参照:SES契約書に「善管注意義務」条項は必要?|一般社団法人SES事業適正化協会
▼関連記事
SESとは?グレーと言われるSESが業界からなくならない2つの理由
準委任契約と委任契約の違いは依頼する業務内容
準委任契約と対になる言葉として、委任契約があります。
委任契約は、法律行為に関することに限定した業務を委任する際の契約に用いられる契約です。弁護士に訴訟手続きを依頼したり、弁理士に特許申請の手続きを依頼したりする行為は、委任契約を締結することになります。
法律行為には契約(売買、賃貸借、雇用、請負、ライセンス契約、コンサルティング契約など)、単独行為(契約の解除・取消など)、合同行為(社団法人の設立など)が含まれています。
デバッグなどの一部業務はこれらの法律行為に含まれないため、これらは委任行為とは呼べません。こうした、法律行為を伴わない内容を委任する場合に締結するのが準委任契約です。
準委任契約は民法によって、『規定は、法律行為でない事務の委託について準用する』とされており、法律行為を委任するかどうか以外の違いはありません。
出典|参照:民法第656条 – 準委任 | 金子総合法律事務所
準委任契約と労働者派遣契約の違いは指揮命令系統
準委任契約と労働者派遣契約の最大の違いは、指揮命令権の場所にあります。
準委任契約においては受注先企業、SES契約の場合はシステムエンジニアが属している企業の上長が指示者です。発注者がシステムエンジニアに指示を行いたいときは、契約先の企業に指示を依頼し、契約先企業から各労働者へ指示が行われます。
一方、労働者派遣契約の場合の指揮命令権は、派遣先企業にあるのです。この場合、業務指示を行いたいときには派遣先企業が労働者に対して、その場で直接指示を出せます。
報酬の支払いは、準委任契約が業務の遂行、または成果物の納品に対して行われるのに対し、労働者派遣契約では労働力の提供への対価として報酬が支払われます。
【受注者側】準委任契約のメリット
受注者側のメリットは以下のとおりです。準委任契約の契約形態は、受注者側にとっても多くのメリットがあることが特徴となっています。メリットについて詳しく見ていきましょう。
適切に業務を行っていれば報酬を請求できる
準委任契約では、たとえ成果物が完成しなかったとしても、報酬を受け取れる場合があります。履行割合型契約の場合は、働いた労働時間に対しての対価が支払われるためです。
成果完成型契約は、基本的に成果物引き渡しのタイミングで報酬が支払われますが、途中で契約打ち切りになったとしても、現在作成が完了している部分までを納品すれば、報酬額の何割かを報酬として請求できます。
自己裁量で業務を進めやすい
準委任契約では、指揮命令権が受注者にあります。客先常駐の案件であったとしても、フリーランスなどの場合は自己裁量で業務を進められるため、精神的な負担が軽減できます。
完成に対する責任がない
準委任契約で受注者の義務とされるのは、善管注意義務です。そのため、納品物が仮に完成しなかったとしても、適切な業務フローで最適な仕事をした上で納品していれば、責任は発生しない場合があります。
もちろん、納品物として依頼内容を満たしていないようなものを提出すれば契約解除につながってしまうというリスクがあるので、注意は必要です。
【発注者側】準委任契約のメリット
発注者側のメリットは以下のとおりです。従業員の直接雇用とは異なるこの契約形態は、発注者側にとってもさまざまな利点があることから、多くのビジネスシーンで活用されています。ぜひ参考にしてください。
自社で従業員を育成する必要がない
業務を外部委託する場合の最大のメリットは、自社での社員研修等が不要となる点です。自社の社員で業務を効率的に行おうとすると、どうしても初期研修としてさまざまな勉強をしてもらう必要があります。
また、新入社員であれば任せたい業務以外にも基本的なビジネスマナーについての研修が必要になりますし、社内での人事考課、ジョブフローなど、社員へのサポート業務も多くなりがちです。
自社社員を増やすことなく業務を外部委託することで、こうしたコストを削減できます。
即戦力を業務に登用できる
外部委託のメリットとして大きいのは、即戦力をすぐに現場に投入できるという点です。自社社員はある程度勉強やトレーニングを積まないと実際の現場で作業にあたらせることは難しいと考える企業もいるでしょう。
準委任契約などによって労働力を外注することで、こうした問題を解決できるでしょう。
優秀な人材を採用し、不要な人材と契約を終了しやすい
請負契約では、受注者に相当の問題がない限り、契約期間中の解除は認められないことがあります。
一方、準委任契約の場合は、契約の当事者、どちらか一方からの申し出があれば、契約関係が終了します。個別に優秀な人材を採用した場合、準委任契約を結んでいるほかの不要な人材との契約を打ち切ることも簡単でしょう。
一方的な契約解除の場合には損害賠償請求や一定の契約金の保証を求められるケースはありますが、それでも契約の切り替えがしやすいというのは、大きなメリットです。
雇用期間や人数の制限がない
労働者派遣契約では、派遣を受けられる期間について、同一事業所内では最大3年という上限があります。一方、準委任契約では期間の制限がないため、超長期的に契約を結ぶことも可能です。
また、準委任契約を結ぶ相手の人数にも制限がないため、労働力を柔軟に確保しやすくなります。
出典|参照:派遣先の皆様へ|厚生労働省
【受注者側】準委任契約のデメリット
この契約形態は受注者側にも一定のデメリットを伴います。ビジネスシーンで準委任契約を選ぶ場面が増える中、そのリスクを十分に理解し、対策を考えておくことが重要となります。
以下、受注者としてのデメリットと、それをどのように捉え、対応すべきかのアドバイスを紹介します。
突然契約が打ち切りになるリスクがある
準委任契約は、一方からの申し出のみで契約を解除できるという特徴があります。
そのため、発注元企業の業績が悪化したり、自身の成果物の出来が今ひとつだったりすると、簡単に契約を打ち切られてしまうリスクがあります。
報酬が安定しない
準委任契約は、正社員雇用などと違い、労働基準法に規定された最低賃金の縛りを受けません。それどころか、特約をつけない限り、原則として無報酬で仕事をすることになってしまいます。
これは、そもそも委任契約という行為自体に民法上で報酬の定めがなく、これに準ずる準委任契約についても、報酬についての規定がないからです。
そのため、個人で業務を請け負う際には、自身の対応にかかる時間(工数)と報酬のバランスについて、詳しく検討を行うことが求められます。
場合によっては安請け合いによって最低賃金を下回る恐れもあるため、契約時・契約更新時にはしっかりと内容を精査しましょう。
もちろん、準委任契約を企業間で取り交わし、受注先企業で雇われている労働者が発注元企業の依頼内容を履行する場合には、受注先企業との雇用関係に基づいて労働基準法の各種規定が適用されます。
また、準委任契約における報酬額は、個人や依頼先企業の信頼度・能力、発注元企業の財務状況に大きく依存しており、契約更新の際に報酬額が大幅に変化する可能性があるのです。収入が増える分にはメリットになりますが、減るリスクも許容する必要があります。
【発注者側】準委任契約のデメリット
外部への業務委託は、多くの企業にとって手軽に業務の拡大や効率化を目指す手段として捉えられます。しかし、その裏には発注者側にとっても見過ごせないリスクが潜んでいます。
準委任契約の利用は確かに多くのメリットをもたらすかもしれませんが、以下にあげるようなデメリットをしっかりと認識し、対策を練ることが大切です。
成果物が完成しない可能性もある
準委任契約における受任者の義務は、善管注意義務に留まります。成果完成型の準委任契約であっても、求められるのは成果物の納品までであり、のちに不備が発覚しても修正指示を出すことはできない場合があります。
また、成果物が納品される前の段階で契約を打ち切りにされてしまうリスクもある上、そのような状態であっても、業務にあたった日数などを基に一定の報酬を支払わなくてはいけないケースもあります。
契約不適合責任がない
請負契約では、成果物に重大な問題があって企業に損害が生じた場合、契約不適合責任として請負先から損害賠償を受け取れる可能性があります。
一方、準委任契約においては契約不適合責任が存在しないため、成果物によって生じた損害に対して損害賠償請求することは難しいです。
ただし、準委任契約には善管注意義務があるため、明らかに故意で成果物を不良品にしているようなケースでは、その限りではありません。
準委任契約を結ぶ際の注意点
ここまで、準委任契約のメリット・デメリットをご紹介しましたが、実際に契約を結ぶ際には、注意しなければいけないことがあります。ここからは、注意点について深掘りしていきます。
偽装請負のトラブルが発生する可能性がある
準委任契約を結んでいるものの、本来は労働者派遣契約・請負契約などでしか発生しない義務を果たすように求めた場合、偽装請負としてトラブルになるリスクがあります。
たとえば、準委任契約では発注元企業が受任者に指示できることは限定されており、ワークフローや就業規則に該当するようなことについては、原則指示ができません。
偽装請負の場合、発注元・受任先の事業主双方に対して、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
出典|参照:労働者派遣と偽装請負 | 埼玉の弁護士グリーンリーフ法律事務所
業務のタイミングによって短期で解約される場合がある
ほとんど働くことなくごく短期間に契約解除となってしまうリスクがあります。
たとえば、あるシステムの保守作業を準委任契約で受任したとしても、そのシステムが次の日に大きなトラブルに巻き込まれて再開発、サポート終了などになった場合、保守作業での契約は不要になるのです。
原則として再委託はできない
委託を受けた事業者は、原則として再委託(いわゆる孫請け)はできないという規定があります。準委任契約を企業として受ける場合は、自社の社員で必要な工数を確保できるかを確認しておく必要があります。
具体的に再委託が可能になる条件としては、
・委任者(発注元)の許諾を得たとき
・やむを得ない事由があるとき(倒産など業務遂行が不能な場合など)
があげられます。
準委託契約は、発注者と受託者の相互信頼関係に基づいて締結されている面がありますので、どうしても再委託をせざるを得ない事情が生じた場合でも、発注元に許諾をもらうようにしましょう。
時間給や日当で支払われることが多い
準委任契約は労働時間に対しての対価として支払われることも多い契約形態です。
そのため、月ごとにまとまったお金として振り込むのではなく、時間給や日当の形で支払っても、契約で事前に取り決めていれば問題ないケースがあります。
この際、契約で取り決めておく報酬額は、最低賃金や業界の相場を大きく下回らないよう、受任者は注意しておく必要があります。
とくに時給制・日当支払いの場合は、額面額だけ見てもイメージをつけにくいことがありますので、税引き後報酬額についても確認を怠らないよう注意しましょう。
善管注意義務が発生する
準委任契約の受任者には、善管注意義務(善良な管理者の注意義務)が生じます。適切に業務を遂行するために必要な注意を怠らず、職務にあたることが求められます。
納品したものによって大きな損害が出た場合など、善管注意義務を果たしていたことを証明するために、具体的にどのような作業フロー・確認フローを取っていたかなどを記録しておくといいでしょう。
トラブルを避けるために準委任契約の契約書で確認するポイント
準委任契約においてトラブルになりやすい点は、あらかじめ契約書で明確にしておく必要があります。ここからは、準委任契約における契約書でとくに明確にしておくべきポイントを紹介します。
業務内容・範囲・遂行方法
具体的にどのような業務にあたってもらうのか、どの程度の量を対応してもらうのかなどを決めておきます。
準委任契約においては、具体的にどのような職務を、どのような量を行うかを事前に取り決めておかないと、対応すべき業務範囲がどんどん拡大してしまうリスクがあるのです。
また、遂行方法について、受注元企業に常駐するのかや、テレワークの可否などを、あらかじめ確認しておきます。
報告義務の履行方法
・その日1日の成果物をメールで送付する
・1か月間の開発結果を社内ツールで展開する
など、受任した契約に対してどのような成果が出ているかを報告する方法を規定します。
準委任契約での成果物報告については善管注意義務しか規定されていないため、細かく進捗を確認する方法についても明らかにしておくことで、より安心できる状態での準委任契約が可能になります。
報酬の対象・金額・支払いタイミング
準委任契約には履行割合型と成果完成型の2パターンがありますが、これは法律などで明文化されたものではありません。
そのため、委託したい内容の詳細として、「どのような行為に対して報酬を支払うか」を具体的に明言しておく必要があります。
また、準委任契約は報酬に関して特段の取り決めがない場合、無償での役務提供となってしまう可能性があります。必ず報酬の金額についてもしっかりと記載をしておきましょう。
報酬支払い時期は、日ごと、月ごとに払い出す方法や、委託したものの納品をもって払い出しとする方法など、自由に選択可能です。支払い対象の報酬額の締日と払い出し日についても、明確に規定しておきましょう。
禁止事項
準委任契約の受注先が企業で、そこに属する人員が働いてくれる場合、業務にかかわる指示は受注先企業が行うこととなります。
この際、あらかじめ業務上の注意などを取り決めておくことで、現場から直接作業者に指示を出さなくてはいけないリスクを低減できるでしょう。
また、個人が受注者となっている場合でも、事前に禁止事項を取り決めておくことで、最低限業務において守らなくてはいけないルールを共有できます。偽装請負を避けるためにも、規定しておくといいでしょう。
知的財産権の所在
成果完成型の準委任契約では、ある一定の成果物ができ上がります。この成果物の知的財産権(特許権・意匠権・著作権等)の帰属先は、トラブルを避けるために記載が必要です。
また、これらの成果物が他者の知的財産権を侵害していた場合、第三者から訴訟を起こされるリスクがあります。準委任契約では契約不適合責任が問えないため、こうしたトラブルに備えた記載も必要です。
出典|参照:知的財産権について | 経済産業省 特許庁
経費精算の方法
準委任契約では、受注者が契約を実行するためにかかった費用を、発注者に請求できます。この経費精算は、経費発生時に都度精算する方法や、報酬支払い時にまとめて精算する方法などです。
いずれの場合も、事前に取り決めておくことで、混乱を防げます。
損害賠償の有無と発生条件
準委任契約には契約不適合責任がありません。
そのため、納品されたものや委託先の不手際によってなんらかの損害が出た場合でも、損害賠償請求が発生する条件について特段の取り決めがなければ損害賠償が受けられるとは限りません。
大きなトラブルになるのを避けるためにも、具体的にどのようなときに損害賠償を行うかを取り決めておきましょう。
出典|参照:システム開発における契約不適合責任・瑕疵担保責任との違いを解説 | 東京スタートアップ法律事務所
契約解除の条件
準委任契約では、当事者の破産や死亡など、社会的に見て契約の継続が困難であると考えられる場合、契約解除となります。
それ以外でも、片方からの一方的な通知で準委任契約は解除可能ですが、受注者に対して損害賠償を行わなくてはいけなくなるケースも考えられます。
そのため、具体的に準委任契約がどのような条件を満たしたときに契約終了となるのかについて、明記しておきましょう。
具体的には、
・対象成果物の完成をもって契約満了とする
・一定の期日を設定し、そこに達したら契約満了とする
といった文言を記載すると良いでしょう。
準委任契約の特徴を理解して慎重に契約を結ぼう
準委任契約は、請負契約や労働者派遣契約と同様に、社外の労働力を確保できる契約形態です。ほかの契約との大きな違いは、
・成果物の完了は要求できない
・準委任契約の受注者に課せられるのは善管注意義務
・契約は発注者・受注者の双方から、一方的に解除することもできる
・発注者は受注先企業の労働者に対して、直接業務指示を出せない
などです。
こうした準委任契約の特性を理解した上で、適切な契約を結びましょう。
また、SES契約に代表されるように、準委任契約はIT分野、エンジニアでよく見られる契約です。
ITエンジニアのフリーランスで就業やキャリアアップを検討している方や、準委任契約で働いてくれるフリーランスを探している企業担当者の方は、ぜひMidworksを活用してみてください。
自分にあった案件を紹介してもらいやすい、フリーランスと企業のマッチングサポートサービスです。