開業届に記載する屋号とは?つけ方のポイントや注意点も併せて紹介
屋号とは、個人事業主が事業を始めるときに付ける事業名のことです。開業届に屋号を記載することで、屋号付きの銀行口座が開設できたり、事業内容を覚えてもらいやすくなったりします。
本記事では開業届に屋号を記載するメリットをはじめ、屋号を付ける時のポイントや注意点に関しても解説していますので、フリーランスの方もこれからフリーランスを目指そうとしている方も参考にしてみてください。
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屋号とは?
屋号は、個人が事業をはじめるときにつけられる事業名です。屋号は~店、~事務所、~オフィスなどの言葉をつけて登録できるため、法人にあたる会社名と言えるでしょう。
開業届に屋号を記入する欄がありますが、屋号をつける義務はありません。個人事業主の中には屋号をつけず本名やペンネームで活動している人もいます。
ひとつの事業として店舗名や事務所名をつけたい場合は屋号をつけるとよいでしょう。
開業届に屋号を記載するメリット
屋号をつけなくても開業できるのであれば、つける必要があるのか疑問を持つ人もいるでしょう。結論を言うと、屋号には4つのメリットがあります。
1つ目は、屋号つきの銀行口座を開設できる点です。プライベートの個人口座と仕事用の口座をわけると、事業の資金の流れを把握しやすくなり、事務手続きなどがスムーズになります。
2つ目は、本名より社会的な信用を得やすくなる点です。営業をする際も名前より屋号で事業紹介することで、一事業として認識してもらい信頼を勝ち取るきっかけになります。
3つ目は、事業内容を覚えてもらいやすくなる点です。事業内容が販売なら屋号を〇〇ショップとすることで、取引先に販売事業をしていると認識してもらいやすくなります。
4つ目は、事業への愛着と事業主として自覚が芽生える点です。屋号をつけることで事業主の自覚と愛着を持ちやすくなります。事業を運営している自覚は向上心にも繋がるため、良い効果と言えるでしょう。
屋号の変更は後からでも可能
屋号は一度登録した後でも変更が可能です。また、屋号なしで開業した場合も途中から登録できます。
屋号を変更する場合は確定申告の書類に変更後の屋号を記入し、屋号変更した内容を書き足しましょう。あらためて開業届を提出する必要はありません。
屋号の変更は回数に制限がないためいつでも変更できますが、事業の看板である屋号を何度も変えると、取引先に覚え直してもらう手間がうまれたり、取引先からの信頼に影響をあたえてしまう可能性があります。
屋号を変更する際は、慎重に検討しましょう。
屋号を記載する代表的な届け出
屋号を考える際にすぐに名前が決まらず、悩んでしまう人もいるのではないでしょうか。ここでは代表的な屋号を紹介しているので、参考にしてみてください。
屋号は取引先に覚えてもらいやすくするため、事業内容に沿った言葉がよく使われます。
製菓やアクセサリーなどものを販売する事業は、店、ショップ、商店が多く使われ、デザイナーやライターなど事務的な事業は、事務所、オフィス、スタジオが代表的です。
また、弁護士や公認会計士など資格が必要な事業も、事務所、オフィスが代表的な屋号として使われています。
屋号は事業の看板になる名前です。仕事がスムーズに進められるよう事業内容にあった言葉を選ぶよう心がけてみてください。
屋号をつけるポイントとは?
屋号はつける義務がないため自由度が高く、漢字、ひらがな、カタカナ以外に英語や記号も使えます。選べる範囲が広いため好きな言葉をつけられるメリットもありますが、大切なのは事業の看板として使っていく名称としてふさわしいかという点です。
言葉によっては屋号に不向きなものもあるため、これから紹介するポイントを押さえ、事業の看板として納得のいく名前をつけましょう。
個人名を屋号にするのもOK
個人名を屋号にすることは可能です。
例えば、事業をはじめる前から個人名で活動していた人は、個人名をつけることで事業内容を理解してもらえる場合があります。珍しい名前の場合は印象に残りやすいため、おすすめです。
また、将来的に本名の認知度を上げたい場合も、個人名をつけるメリットがあると言えるでしょう。事業内容によっては事業主の特徴を前面に出してアピールするほうが宣伝になり、事業にとってもよい働きをします。
まずは個人名を屋号として使いたいのか、使うことにメリットがあるのか考えてみましょう。
事業内容と関連性を持たせる
ものを販売する事業であれば、〇〇ショップと事業内容をイメージしやすくするのがポイントです。
屋号は事業の看板になるため、取引先に覚えてもらいやすい名前が好まれます。事業内容と関連性を持たせることで、どんな事業をしているのか取引先に把握してもらいやすくなるでしょう。
事業を連想しづらいものをつけてしまった場合は取引先に意味を説明したり、違和感をあたえてしまう可能性があります。
読みやすさ
相手に覚えてもらうためにも、読みやすい言葉を使うのがポイントです。
屋号は英語や記号をつけられるほど自由度が高いですが、慣れ親しんでいない言葉や記号を使ってしまうと覚えにくくなってしまいます。愛着の持てる屋号をつけるのも大切ですが、伝える相手がいることを忘れないようにしましょう。
また、発音が難しい屋号も聞き取りづらく、覚えてもらえない恐れがあります。外国語に限らず、日本語でも発音しづらい言葉や方言のように地域によって意味が伝わらない言葉には注意が必要です。
普段聞かない言葉や難しい発音にはインパクトがありますが、取引先に覚えてもらえない可能性があるため、おすすめできません。使いたい言葉が読みやすいか、発音しやすいかチェックしましょう。
長すぎる名称は避ける
屋号は文字数に制限がないため、長すぎる名称をつけてしまうと覚えづらくなってしまいます。
事業内容が複数あり、全部の要素を取り入れたいという事情があっても、取引先に覚えてもらう点を考えると不向きだと言えるでしょう。この場合は、少ない言葉で事業内容を表せないか検討してください。
名称が長くなってしまった場合は省略するのも1つの手法です。言葉によっては、省略されて使われていても違和感がないほど日常生活に浸透している言葉もあります。
また、漢字の屋号であっても読むと長い場合もあるため、使いたい言葉を口に出して考えるとバランスのよい屋号がつくれるでしょう。
マイナスなワードは使わない
屋号は事業の看板になる名称のため、マイナスなワードを使わないように注意しましょう。
事業は社会的に信頼を得て成長していくものです。下品な言葉や縁起の悪い言葉、不安を煽るようなワードが使われていると、取引先との信頼関係を築けないだけでなく、仕事の依頼がこない可能性もあるでしょう。
縁起の良い画数で考えてもOK
屋号は5,7,8,9,15の画数でつけると縁起が良いとされ、大企業でも取り入れられるなど一般的な決め方です。
読みやすさや、覚えやすさ、という取引先の視点から考える客観性と異なり、事業主が事業の発展を願ってつける主観的な要素と言えます。
事業が良い方向に進むよう、縁起の良い画数にするのも屋号をつけるときのポイントと言えるでしょう。
2種類以上の屋号も使用可能
個人事業主によっては、複数の事業を運営している場合もあります。内容の違う事業に対し1つの屋号だと、不便になってしまう人もいるでしょう。
法人がいくつもの事業を行い、異なる名称の会社を持つように、個人事業主も2つ以上の屋号を持てます。
複数事業を運営する場合は資金管理が難しくなるため、銀行口座は別々に開設するのがおすすめです。後から屋号を追加し、新しい屋号名義の口座を開設したい場合は、登録手続きを忘れないように注意してください。
フリーランスが屋号を決める際の注意点
個人事業主が屋号をつけるメリットや屋号をつける際のポイントを紹介しましたが、いくつか注意点もあります。ここでは、屋号を決める際の注意点を4つ紹介しています。
事業をスムーズに運営するためにも、ここで紹介する注意点をしっかりと把握しましょう。
「会社」「コーポレーション」「法人」は入れられない
会社、法人、コーポレーションは法人事業が使う言葉のため、個人事業主は使えません。上記の言葉は、法人でなおかつ法人格という法律上で立場を認められた事業しかつけられない言葉です。〇〇会社と名乗ることで社会的に認められ、信頼を証明しているとも言えます。
また、法人化を視野に入れている場合は、使う言葉に注意が必要です。
法人の事業名は商号といい、個人事業主が法人化する際に屋号をそのまま商号として使うことができます。しかし商号は屋号ほど自由度が高くなく、使えない記号などもあるため、法人化のときに名称を変更しなければならない恐れがあります。
将来法人化を考えている場合は、屋号の名称を法人後にも使えるか確認しましょう。
同じ名前が使われていないか確認する
法人を連想させる言葉以外にも、すでに同じ名前が屋号に使われていないか確認するのも重要です。他の個人事業主と名前が被る場合は、取引先に勘違いさせてしまわないためにも、別の名前をつけるのがよいでしょう。
また、すでに使われている屋号が商標登録されており法的に守られている名前であった場合は、後から同じ屋号をつけてしまうと罰則が課せられる可能性があります。
屋号にしたい名称が他者と被っていないかは、「国税庁法人番号公表サイト」や「特許情報プラットフォーム」から確認できます。使いたい名前で問題ないか検索してみてください。
商標権の侵害に注意
屋号自体には法的な効力がありませんが、商標権を取得することで法的に権利を侵害された場合、相手に罰則をあたえ屋号を守れます。
商標権とは、事業者が取り扱う商品またはサービスを他と区別するために使用する識別マークです。商標権を取得している名称を他者が使うと、商標権の侵害で賠償金や名称の使用の禁止などが課せられる可能性があります。
例えば、ソニーやパナソニックは名前を聞いただけでわかるように、名前の知名度が高く価値があります。企業からすれば、自分たちがブランドとして育ててきた名称を他の企業が使うのを防ぎたいと考えるのは当然です。
個人事業主も事業を発展させ、オリジナル商品やサービスを提供する場合は商標権の取得を検討するとよいでしょう。個人事業主として活動するのであれば自分の権利を獲得し、相手の権利を侵害しないように注意する必要があると言えます。
出典:商標制度の概要|特許庁
参照:https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/chizai08.html
商号権の侵害に注意
事業をはじめる人は、商標権の他に商号権の侵害についても理解しとくとよいでしょう。商号は商標権と同様に他者に侵害された場合、賠償金や使用の停止を請求できます。
ただし、同一の商号で同じ住所であることが条件です。
以前は同一の市区町村内で同一・類似した商号を登録できませんでしたが、法改正により不正な目的等の一部の条件でしか権利を主張できなくなってしまいました。そのため、名称を保護する場合、同時に商標権を取得する流れになっています。
法改正もあり有効範囲が限られますが、事業を運営するにあたって重要な知識です。
出典:商号について|横浜綜合法律事務所
参照:https://www.breeze.gr.jp/field/chitekizaisan/syougou.html
屋号を保護したいなら「商標登録」「商号登記」を
屋号をつけるのであれば、しっかり保護したいと思った人もいるでしょう。屋号を保護したい場合は、「商標登録」と「商号登記」の2つを取得するのがおすすめです。
名称を保護しなかった場合は同一の屋号を持つ他の事業者がいることにより、不利益を被る可能性がでてきてしまいます。事業をはじめるのであれば、守り方を知るのは事業主として必要な力です。
「商標登録」と「商号登記」は、それぞれ保護できる内容が違います。2つの違いを理解することで個人事業主として必要な知識が増えるため、ぜひ確認してみてください。
基本的に屋号は保護されない
屋号自体は保護されていない名称です。法人の商号のように法的な効力がなく保護されていない分、変更できたり自由度が高いと言えます。
しかし、事業が成長するにつれ事業に価値がつき、名称の知名度が上がれば、名称などを悪用しようとする者から事業を守る知識が必要です。
コツコツ大切に育ててきた企業を他者に勝手に使われるのはよいものではありません。事業の不利益を被れば、最悪の場合、事業をたたまないといけなくなる恐れもあると言えるでしょう。
法人化を目標にしている場合は、将来を見越して屋号を保護することで個人事業主から法人へ移行した際にそのまま使えます。事業の名称と長く付き合うことを考えて保護しましょう。
「商標登録」で屋号を保護できる
屋号は法的に保護されませんが、商標登録で保護が可能です。
商標登録は、国の機関である特許庁へ自分しか使えないようにしたい文字や図形、その他キャラクターなどの商標として登録する行為です。商標登録されたものは登録商標と呼ばれます。
対象を商標登録せずにいると、他者が商標登録したときに自分が商標権の侵害をしたことになりかねません。そのような事態を招かないためにも登録するのがよいと言えます。
商標登録できるものは上記以外に動きのあるもの、音響、色彩など多岐にわたるため、事業を行う前にどんな商標があるのか確認するのもよいでしょう。
屋号を商標登録することで他者が同一の名称を使えなくなり、万が一使った場合には商標権の侵害として相手に賠償金や使用禁止など処罰できます。
「商号登記」で同一住所に限って保護できる
商号登記は、同一住所の場合のみ保護する力を持っています。同一住所以外に効力のない商号登記ですが、商号登記することで得られるメリットもあります。
例えば、商号登記することで登記した事業として情報が一般公開されるため、個人事業主と証明できるだけでなく、信頼を得られます。
屋号の保護という意味では、同一住所と条件が限定している点で完全に名称を保護できているとは言えませんが、他のメリットを考えれば申請しておくのがおすすめです。
フリーランスや個人事業主の開業届に記載する屋号を考えてみよう
個人事業主が事業に屋号をつけるメリットやポイントに加え、法律的な内容まで紹介してきましたが、いかがでしょうか。
屋号をつけることで社会的信用に繋がるだけでなく、事業口座を開設できるなど事業を上手く運営していくために役立ちます。
屋号は記号や英語など使えるため自由度が高いですが、事業を長く続けるのであれば読みやすさ聞き取りやすさだけでなく、縁起の良さや愛着も考慮して納得のいく名称を考えるのが大切です。
また、屋号自体には法的な効力はありませんが、商標登録や商号登記を申請することで他者に名称を侵害されず、事業の顔である屋号を保護できます。
開業を検討している人は、この記事を参考に屋号を考えてみてください。